…いつからだっただろう?


   『君が傍に、居てくれる事』


   唯それだけの事が、自分の心にどれほどの安心感を与えてくれているなんて―――

 

 

 

 




              
Quite Like A Cat.−<後編>

 

 

 





   「あ、っ!!探したんだぞ!!クサナギの事でエリカが呼んでるんだ」


   「おい、っ!!お前今暇かっ!?」



   やって来たのはカガリとフラガ。
   そのどちらもがを探していたと言う。


   …キラだって、人間だ。

   だからと言ってこう何度も何度も邪魔されると――それもと居る時に限って――キラにだって
   我慢の限度と言う物がある。

   いい加減、キラが文句を言いかけたその時…



   「――はい、ストップ」


   「っ…て、うわっ!?い、っ!!?」



   突然の身体が浮く感覚に振り返ると、何時の間に傍まで来ていたのかがカガリを腕の下から
   持ち上げた状態で彼女の顔をやれやれと嘆息しつつ、それでも笑う。



   「エリカ女史が呼んでる内容って何?」


   「えっ…あー、クサナギの全般の調整が何とかって…」


   「ふーん…ならそれ、俺が行くわ」


   「え?あ、…うん。が来るってんなら…」



   カガリがの提案に上手く乗ったかと思えば、今度はフラガがしめたと言わんばかりに
   喰いつく。



   「よっし!じゃあ俺とのMS戦に付き合ってくれるな!?」


   「はぁ??」



   余りに素っ頓狂なフラガの言に呆れるのはこっちの方だ。
   そんな事をだけでなくキラでさえ考えているのを知ってか知らずか、フラガは続ける。



   「そりゃキラでも良いんだけどさー。ちょっとキラとのMS戦は相性が合わないって言うか…」



   そう言えば、フラガはストライクを自機として以来キラのフリーダムとの実戦特訓を繰り返していた。
   更に付け加えるなら、一度たりとてキラに勝った試しもない。
   だからと言って行き成りとの特訓を申し出るって言うのも…ある意味自爆行為だと言う事を
   この青年は分かっているんだろうか?



   「あのー、えーと、…フラガさん…それ、本気ですか?」



   空笑いしつつ、フラガに何となく聞いてみるであったが、



   「は?何か悪いってんのか??」



   フラガの何も考えていませんと宣言しているかの様な言に、はがくりと力が抜ける。


   ………やっぱり、何も考えてないらしい。


   さて、どうやって説得するかと頭を悩ますではあったが、そこに天の助けとも言える存在が
   やって来た。



   「…ムウ?貴方、何をさんに無理な事言ってるのかしら?」


   「っっ痛っ――!!?、ま、マリューっ!?」



   フラガの背後から彼の耳を思いっきり抓み上げたのは、アークエンジェル艦長であるマリューであった。

   因みに彼女とフラガは自他共に認めるラブラブカップルな訳で。
   同時に唯一“エンディミオンの鷹”たるフラガが逆らえない存在でもある。



   「いや、俺は唯ストライクの操縦の技術を純粋に高めようと思ってだな…」


   「何言ってるの。にさえ一度たりとも勝てさえしない貴方が、幾ら悔しいからって
    さんに勝とうだなんて数万年早いって事…分かってるの?」


   「う``っ・・・いや、だが、万が一って事も…」


   「在り得ないわよ、ムウ。諦めなさい」


   「……はい…」



   見事なまでに一刀両断されたフラガはまるで子供の様にしゅんと項垂れた。
   こうなったらまるで『鷹』が『子犬』に見えて仕方がない。
   沈没したフラガは放っておいて、マリューはそれに、との方に向き直る。



   「さん…最近、殆ど仮眠を取ってないんですって?」



   ピシっとその場の空気が一瞬固まる。



   「……マリューさん…それ、誰から…?」


   「からよ」



   今回のこの人の事だって、が教えてくれたから自分も気が付いた様なものだ。
   当の本人はあちゃーと言った感じで額をその手で押さえる。

   しかし、この場に居る誰よりもいち早くその言葉に反応したのは――まぁ、当然と言うか、キラだった。



   「…それ、本当?」


   「え?あ、いや…まぁ、その…」


   「―――寝てないんだ?」


   「………ゴメンナサイ」



   キラの真剣な表情には僅かに視線をそらしつつ、思わず謝罪の言葉を口にする。
   そんな彼女にキラは小さく溜息を吐くと、の手を取りすたすたと歩き出した。



   「ちょっ…キラっ!?」


   「…2、3時間――休憩、良いですよね?」



   突然の行動に抗議するの腕を問答無用で引っ張って連れて行き様、キラはマリューに短いながら
   確認する。
   確認、と言うか当然の権利だろうとキラの紫の瞳は口よりも物を言い。
   マリューは勿論快く頷いた。



   「暫くのんびりして来いよ…久しぶり、なんだろ?」


   「…ありがとうございます。さん」



   すれ違い様、肩を軽く叩かれ言われた言葉一つで全てを把握したキラはに素直に礼を述べ、
   を連れてその場を後にする。



   「さて、じゃあ俺たちも行くか」


   「あー…で?俺のMS戦、誰がやってくれるんだ?」



   カガリを促し、自分達はクサナギの方へと足を向けるその背中にしょぼくれたフラガの言葉には振り返る。
   しつこい!と再びマリューに怒られているフラガにが告げる。



   「大丈夫ですよフラガ少佐。適任者、そっちに行く様に言っておきましたから」


   「…適任者…?」



   って、誰だ??状態なフラガの姿には不敵な笑みを浮かべたのだった。

 




***

 




   「はい」


   「あ、…ありがとう…」



   差し出された温かい缶のミルクティーをソファに座ったが受け取るのを見て取ってから、キラは
   彼女のすぐ隣に腰を落ち着け自身の分のタグを取り口に持って行く。
   だが、はそれどころではない。



   「………もしかして…怒ってる…?」



   ありったけの勇気を持って、は恐る恐る隣のキラに尋ねる。
   その頭の中では普段よりも更にフルスピードで何か良い言い訳がないかとフル回転してはいるが
   なかなか良い言葉が見つからない。



   「…前に言ったよね?『僕は、が好き』だって」


   「う、…うん」



   缶コーヒーを一口飲み干して、キラは続ける。



   「…僕だって、人間だし…それには僕にとって一番大切だから――」



   そこで一息置くと、キラはにきちんと向き直る。



   「心配だってするし、怒るよ」


   「ご…ごめん…」



   キラの真剣な紫の眼差しに射抜かれて、は考える事を止め、素直に謝った。

   彼の気持ちを軽々しく思っていた訳ではないけれど、心配される事や怒られる事…
   それら全てが自分を思っての事な訳で、申し訳ない気持ちもあったが反面にとっては
   心が温まる様で何処か嬉しかった。



   「…考えてみると、久しぶりだね?こうして二人っきりで話すのも」


   「え?あ…うん。……て、、今話逸らそうとしなかった?」



   キラがそうはさせるかと、続けてみたものの不意に自分の左肩に掛かる不愉快ではない重み。



   「…?」


   「うん…ちゃんと、分かってるよキラ…。だからさ…ほんのちょっとで良いから、肩、貸してね?」



   折角買ってくれたミルクティーの缶もそのままで、はキラの肩に軽く寄りかかった。
   そしてそのまま静かな寝息を立て始める。

   やはり仮眠をしていなかったのが祟ったのか…それともそれは、相手がキラだから、だったのか…。

   まだまだ言いたい事はたくさんあったのだけど…彼女の穏やかな寝顔を見てしまうと最早何も言えない。
   一つだけ小さく溜息を吐いて、キラも寄りかかるの頭部に軽く自身も体重を掛け寄り添う。


   2、3時間の僅かな間でしかないけれど…このレストスペースの入り口は此処に入る時点で邪魔されない
   様ロックしておいた。



   の寝顔とその体温の暖かさに自然と瞼が閉じて行く。

 




   ―――偶には、良いかも知れない。



                        何も考えずに、こうして…傍に在ると言う事―――

 







    そう、それはまるで猫の様に寄り添い合う…時間と言うのも―――



 




                                                   End…





                            ―
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