――― 分かってる。


   今はこんな状況で、下手をすれば猫の手を借りたい程忙しくて…。
   だから難しいって事位…僕だって分かってるんだ。



   …だけど、“もう少し”と願うのは…僕の勝手なエゴに過ぎないのかな…。














                             
Quite Like A Cat.−<前編>

 

 

 






   キラの搭乗機である『フリーダム』はZAFTが開発した新型のMSだ。
   驚異的なパワーと圧倒的な火力――それらは全て、フリーダムに組み込まれている動力源、
   核エネルギーとニュートロンジャマーキャンセラーと言うシステムが搭載されている為…。
   つまり、核エネルギーを使えない筈の今の世界で、その恩恵を受けているフリーダムはある意味
   禁忌の機体であると言える。

   その為、フリーダムのメンテナンスは全てキラ一人で行わなければならなかった。


   ―――まあそれはこの場に並び立つアスランの『ジャスティス』、そしての新型機にも言える
   事なのだが。


   タラップを挟んで左側でちょうども又、自身のMSのメンテを行っていた。
   一足先に整備を終わらせたキラは、フリーダムのコクピットから出るともうすぐメンテが終わりそうな彼女に
   声を掛けようとする。



   「!良かったら今日のお昼―――」



   しかしそんなキラの言葉がに届く前にタラップから張り上げられた声に簡単に打ち消された。



   「ー!!今日私とお昼に参りませんかー??」



   結い上げた長いピンクの髪を揺らしてラクスが呼び掛けるのに、メンテの終了した
   それに答えつつ、コクピットから出てくる。



   「…昨日も一緒したんじゃなかったっけ?」


   「あら?となら毎日一緒でも構いませんわ」


   「それを言うならに―――」


   「にはもう先に行ってもらって席取りをお願いしましたわ」



   ですから、私がをお呼びする係になったのですわ。


   にっこりとした笑顔で嬉しそうにそう告げるラクスには、軽く嘆息する。
  
   ああ、でもダメなんだ。
   昔からはこのピンク髪の妹とも取れる少女の笑顔には弱い。



   「…分かった。すぐに降りるから…。………あれ?そう言えばキラ、さっき何か言った?」



   MSのラダーに手を掛けつつ、今気が付いたかの様に振り返るにタイミングを逸したキラは
   思わず苦笑いする。



   「え…あ、いや…何でもないよ」


   「…そう?」



   小首を傾げつつ、だがラクスの催促にじゃあ、と軽く手を振りタラップに降りて行く。
   その後姿を見送りつつ、キラは思わず肩を落とした。



   ――最近は、いつもこんな感じだな…


   地球軍の在り方自体に疑念のあるやマリュー達、その逆にザフトの今の在り方に疑念ある、アスラン、
   、ディアッカ…、そして中立を保ちそのオーブの信念を受け継ぐ為亡き父の意思を継ぐカガリ達……

   そして、この戦争自体を止める為動き出したラクス達…。


   『この戦争を…争いを止める為に』


   そうして集った自分達は今、L4のコロニー群に駐留している。
   現段階では、まだ地球軍もザフトも大きく動き出していない。
   その間何をするかと言えば、出来る限りの情報収集及び補給の確保、まだ最終チェックの終わらない
   フリーダム・ジャスティス専用運用艦エターナルの再最終チェックであるとか、オーブ旗艦クサナギや
   M1アストレイの整備であったりとか…兎に角、忙しい日々が続いている。


   その中で、互いの気持ちを確認しあったと言えば、ここ最近そこかしこで呼ばれ、暇さえあれば他機の
   整備をやっている様な状態だ。
   勿論、それはそれだけの能力を持っているからなので仕方がないし、キラであってもそれは同じ事だ。



   けれど、折角気持ちが通じ合えたのに……傍に居たいのに……こうして近くに居るのに遠くに感じてしまう。



   「やっぱり…僕の我が侭…かな」



   ぽつり、と一言。
   誰にも聞かれる事のなかった筈のその呟きを、唯一聞いた者が居た事などその時のキラは知る術も
   なかった。




 ***




   「はぁ…終わったーっ!!」



   M1アストレイ数機の調整をしていたは一息着いた仕事に思い切り伸びをする。
   これで一応頼まれたものは済んだ筈だ。
   反重力を利用し、クサナギのドッグを出ようとしてふと思い付く。


   そう言えば、さっきキラは何を言いたかったのだろう?
 

   考えてみればこの状況下にあって、ごく最近だけれど、キラとゆっくり話す機会も余りなかった事に
   気が付いた。
   折角今なら時間が空いて居る所だし…探しにでも行くかな、と出入り口に着いた途端。
   それを見計らったかの様にエア音と共にドアが開く。



   「…っ、キラ?」


   「えっ…!?」



   こんな偶然、あって良いのだろうか?
   扉が開いた途端、目の前にいるのは互いに今会いたいと考えていた人で。
   ああでも、折角なのだからこんな“偶然”、喜ぶべき事じゃないか。

   ちょうどキラに――に、会いに行こうと思っていたのだから。



   「あ、あの…、今から休憩か何か?」



   口火を切ったのはキラの方からだった。
   それに少し微笑を浮かべながら頷いて見せる。



   「うん……キラも?」



   の答えに顔を綻ばせ、キラも頷く。



   「もし良かったら、…僕と―――」



   折角の好機、逃がす手はない。


   キラがそう言うと同時に事は起こった。




 

 

 

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