―――さあ、始めよう



                                  君と僕とのお茶会を。

 





               
――Una riunione di te aggraziata――

 






  星奏学院の森の広場には、隣接する様にカフェテリアが作られていて
  音楽科・普通科を問わず生徒達の憩いの場となっている。

  その窓際の一角、優しい木漏れ日が当たる席は香穂子とのお気に入りで、よく
  二人はお昼とかも此処で過ごす事が多かった。
  だが、今日は珍しく一人がゆっくりとコーヒーカップを傾けている。



  「良いかな?ココ」



  了承するも何も、が口を開く先に対面の席に座る。
  聞く必要性なんてない、寧ろ駄目だと言った所で聞きゃしないだろうと
  呆れた視線を投げた。



  「あれ?今日、日野さんは??」


  「香穂なら今日は練習室でヴァイオリンの練習中。次のコンサートに少し難しい曲、
   選んだみたいだったから」


  「だったからって…さんもメンバーで呼ばれてるんじゃなかったっけ?」



  首を傾げるその所作や金髪碧眼の容姿で微笑まれると多くの女子はイチコロだろう。
  しかし、にとっては別にどうだって良い事で。
  静かにコーヒーカップをソーサに戻す。



  「私のパートはもう練習終わったから」


  「ふーん…そうなんだ」



  そう呟いて、金髪碧眼の持ち主は自分のコーヒーカップを傾けた。



  「と、言う事で残念でした。君の愛しの君とは今日は別行動です」



  微笑を浮かべ、言い放つ。
  その後何事もなかったかの様には再びコーヒーカップを口に運んだ。



  「そっか…それは残念」



  しかし、どうだろう?
  と香穂子…二人は幼馴染らしい。
  今年の春、星奏に帰国子女として転校し、普通科に所属。
  けれどその実、自分と同じヴィオラ奏者で腕前も決して音楽科には劣らない。
  そして日野さんとは幼馴染…。



  「何だかさんって日野さんの保護者みたいだよね」



  金髪碧眼のクラスメイト――加地 葵が笑いながらそう言うのには僅かに
  眉を顰めた。



  「はあ?」


  「いや、だって日野さんのヴァイオリンのファン1号を名乗れる僕よりも
   彼女の事、凄く理解ってるし」



  やっぱり幼馴染だから、なのかな?と呟く加地には香穂と一緒のティー・ブレイク
  のお供に、と家で作ってきたジンジャークッキーを一つ摘む。



  「…ファン1号、てのは間違いね。香穂ヴァイオリンファンクラブの創立者兼会長は
   私で、2号はだもの。だから正確にはあんたは3番目」


  「うわー、これは手厳しいなぁ。ね、コレ貰っても良い?」


  「いや、だから良いって言ってないのに食べてるじゃん」


  「あ、これ美味しいっ!」


  「それはどうも」


  「さんって料理上手?」


  「さぁ、どうだろ?」



  加地のマイペースさに飽きたのか、もう投げ遣りに答えるに加地は
  小さく笑った。



  「あれ?そう言えばさんって実は甘党だったりする?」



  何とはなしにのコーヒーカップの中身を見てそう尋ねる。



  「…何で?」


  「いや、だってそれラテ・マキアートだよね。僕のはエスプレッソだけど」



  ラテ・マキアートと言えば熱いラテの上に生クリームを乗せ、更にアーモンドや
  バニラと言ったフェイバーソースを掛けたものだ。
  甘いモノが好きな人間であれば必ず一度は口にしたくなる代物だ。



  「甘党って訳でもないけど…甘いモノは好き」


  「成程ね…それでジンジャークッキーなんだ」


  「甘いモノは好きだけど、だからってその上に甘いお菓子は嫌なのよ」



  誰だってWパンチは苦手でしょ?

  右手に自分の顔を乗せて窓の外を何となく眺める。



  ―― 彼女は…気付いているだろうか?
  何時もより僕と話している時の口数が確かに多くなっているのを…。



  そんな些細な事が僕の心を満たしているって言う事も ――



  「ああもう君の用事は済んだでしょ?はい、散った散った」



  面倒になって来たのか、犬をこの場から追い払う様に加地に向かってしっしっと
  手を振るに苦笑する。



  「あはは、ヒドイなぁ〜。…うん。今日は取り敢えず立ち去るよ」



  飲み終わったコーヒーカップとトレイを手に加地は席から立ち上がる。
  しかし、座ったままのの横で立ち止まると見惚れる様な笑顔で言った。



  「…明日、コレのお返しに何か作ってくるよ。何が良い?」


  「え?そうだな…ケーキとか無理なの?――…って、あんた言う相手を間違ってる
   んじゃない?言うべき相手は香穂にじゃないの?」



  君の愛しの君でしょ?
  少し揶揄る様に言うに加地は苦笑する。



  「日野さんは僕の‘愛しの君’じゃないよ。彼女のヴァイオリンのファンではある
   けどね。でもそれは恋愛感情とは全く違うもの」


  「ふーん…そんな物なの?」



  感心するかの様に。
  言ってしまえば実に淡白に。
  は軽く相槌を打つ。


  ――きっと、自分には何の関係もないと考えてるのだろう。




  「そうだね…後者として考えるなら――」



  …ダメだよ?



  そっとさり気ない動作で加地はの耳元に口を近付けた。
  そして、



  「僕は君に非常に興味があるけど?」



  ――捕まえたならば、もう二度と離さない――



  至近距離での加地の言に唖然とする。
  ある意味、思考回路が完全に止まった様な顔のに加地は小さく笑うと
  そのままゆっくりと歩き出した。



 




  「あれ?加地君もカフェテラス来てたんだ?見なかった??」


  「ああ、日野さん…練習お疲れ様。さんなら奥の方だよ?…あ、そうだ。
   明日何かお菓子作って来るよ」


  「えっ!?加地君お菓子作れるの?」


  「うーん…さんに敵うかどうかは分からないけど、一応ね?お姫様のお願いで
   ケーキ系にはするつもり」


  「ケーキっ!?て、言うか…お姫様って??」


  「ああ、それは…」


  「―――っっっ、二度と来るなーっ!!」



   漸く止まっていた思考回路が復活したらしい。
   カフェテリアの奥からの叫び声が聞こえるのに加地は楽しそうに笑う。
   状況の見えない香穂子にとっては、取り敢えず首を傾げるしかなかった。

 




    ――さぁ、始めよう?


                             君と僕とのお茶会を。

        


              好きなお菓子と、お茶を並べて。 


             その優雅さに浸るのも良いんじゃない?

 





           そして、それは楽しいモノに必ずなる筈なのだから…――





                                         …End.






   ■あとがき□

    はい!やっと出来ました;;企画用の加地夢…。
    しかし、相変わらず甘くない…です。(断言)でも、企画に間に合って
    良かった…(泣)もし宜しければコメントとか頂けたら嬉しいですww



                                      2007/04/13.






                           −
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