君を初めて見掛けたのは、ほんの数日前の事だった。
― iniziale
impressione. ―
季節は春から夏に変化を告げる頃。
何の取り柄もない、普通の地元の国立高校に入り2年目の学生生活にも慣れて
きた時期。
来年には大学受験を控えているものの、そんな事まだまだ実感すら湧いてこない…
そんな初夏の日曜日。
友人との付き合いを果たしてきた加地は駅前通りを何とはなしに歩いていた。
すれ違う度、誰もが――その9割高は女性だ――彼を振り返る。
それは彼の金髪碧眼と言う容姿はさることながら彼の持つ華やかな雰囲気がそう
させるのかも知れない。
本人は慣れているのか無頓着なのか、何も気にする事はないが。
しかし…どうしようかと思案する。
まだ自宅に帰るには少し早い時間帯なだけに迷う所だ。
何処か喫茶店にでも入って時間でも潰そうか―――そう考えていたちょうどその時。
加地の耳にヴァイオリンの音が滑り込んで来た。
思わず立ち止まる。
見れば駅前の広場にちょっとした人だかりが出来ていて、音はその中心から流れて
来ている様だった。
本当に、無意識にそちらに足が向いた。
人だかりの隙間から赤い髪の同じ年位の少女がヴァイオリンを構え、ちょうど曲を
弾き終える所が見えた。
観衆から自然と拍手が湧き上がる。
少女は少し照れながらペコリと頭を観衆に下げて見せると直ぐに駆け足で広場前に
位置する噴水の方へ行く。
そして噴水の端に腰掛けている同じ年頃の黒髪の少女に声を掛けた。
どんな話をしているのか…ここからは聞き取れない。
だが赤髪の少女はヴァイオリンを片手に黒髪の少女の腕を引っ張る。
はぁ!?と驚いた顔をした後に、それでも仕方がないなぁと言うかの如く。
赤髪の少女が観衆の中に戻り手招きする。
「早く!!!」
「はいはい。分かったから大声で呼ばなくても聞こえてるってば香穂子」
黒髪の少女――、と呼ばれた彼女は立ち上がると足元に置かれていた長方形の
楽器ケースのファスナーを開ける。
そして現れたのは、ヴァイオリンより一回り大き目の、―――ヴィオラ、だった。
それを見た時に、加地の心が思わず震えた。
過去に忘れた何かを呼び起こされるかの様に。
ヴィオラを持ち、香穂子と呼ばれた少女の方へと歩いて行く。
既にその時、加地の目は彼女の姿に見入ってしまっていた。
香穂子がヴァイオリンを構え、隣に立つに目を向ける。
それを見て取ったは静かに微笑んで見せた。
それを合図として、香穂子はヴァイオリンの弦を滑らせる。
弾き始めたのは巷でも有名な、バッハ作曲・『アヴェ・マリア』だった。
ヴァイオリンでの独奏で暖かく優しい旋律が場を包んでいく。
一通り弾き終えたかと思えば、今までヴィオラを持ちながら香穂子の演奏を隣で
耳を澄ます様聞いていたが、閉じていた瞳を開くと同時に流れる様な動作で
ヴィオラを構えた。
ヴァイオリンとヴィオラの二重奏―――独奏での透き通る様な先のアヴェ・マリアよりも
深く、奥行きがあり……二つの音色が互いを追い掛け、絡み合い、螺旋を描くかの様に。
まるで二つの楽器が呼応し話をしている感じで、その音色に柔らかく包まれ、何処か
優しく守られていると……そんな二重奏だった。
気が付いた時には観衆もぱらぱらと去って行く所で、演奏会も終わってしまった様だった。
二人の少女もそれぞれの楽器を仕舞い、その場を去っていく。
赤い髪の少女と、仲良く笑いながら…黒髪のヴィオラの少女と共に。
「凄く良い演奏だったね」
「時々やってるみたいだよ」
「確か星奏の生徒さんだよね?練習なのかなぁ」
まだ残っている観衆の話している内容が聞こえて来る。
確かに、星奏学院はこの辺りでは音楽科と普通科が併設されている珍しい高校だ。
彼女の演奏を聞いてから、加地は胸の奥をちりちりと焼かれているかの様だった。
「香穂子ちゃん、と…‘’ちゃん――か…」
小さくそう呟いて微笑う。
そうして、加地もそろそろと帰路へと着く為歩き出した。
その年の二学期の初日―――‘二人’は意図せぬままに本当の出逢いを果たす事に
なるなど、まだ何も知らないままに―――
end...?
■あとがき□
同盟企画用に書いた初書き加地夢ですっ!……間に合って良かった(ほろり)
発売前なので色々と妄想が…(笑)現時点での相模の加地はこんな感じ?
本当、コルダ2発売楽しみですねっww
コメントなど頂けたら嬉しいです(^^)